市野村(琴丘町)観音菩薩堂と岩館管生の岬(八峰町)の笛滝に伝わる恋物語

菅江真澄の足跡を訪ねる|秋田県琴丘町の観音菩薩堂と笛滝

菅江真澄は、文化3年(1806年)2月21日能代を出発し3月12日志野村(琴丘町)に到着。斎藤清三郎という人の家にしばらく休み、観世音菩薩の堂に詣でた。このお堂には木の根ような仏像が御戸代のうちに安置されている。笛を習おうとする人は、千本の笛竹を切ってこの菩薩に奉り、その千本のうち、手にふと触ったものを一管とって来て、よく孔を作って、さかんに吹けば必ず上達する。たとえ、十本、二十本でも、これを千本になぞらえて、真剣に祈願しているということである。
笛を習おうとする人は、竹笛を観世音菩薩に奉納し笛の上達を祈願している。

菅江真澄遊覧記「かすむ月星」に笛の上達を祈願し竹笛を奉納する様子が書かれています。

笛の上達を滝に祈願し滝の下で笛を吹く習慣が秋田県岩館の浦(岩館)にあります。
部落の人はこの滝を笛滝と呼んでいた。

菅江真澄遊覧記「雪の道奥雪の出羽路」で次のように書いている。

つたの沢というところで、何の木だろうか、大木ありこの下方、御滝といって、神のおわしますところがある。その滝の磯辺にいって、一晩じゅう、寝ずに笛を吹いて滝の神に手向けると、かならず妙なる面白い曲が吹けて、その道の名人になると言われている。笛を吹こうとする人たちは、猿楽の笛童の草刈笛でも、皆ここにきて手向けると言うので、この磯辺の滝を笛滝と呼んでいる。

この笛滝と小入川の立岩には悲しい恋物語が語られています。
一人の青年が笛の名人になるため毎日笛を吹いて笛の神に手向けた。
すると滝の女神が美しい音色の曲を青年に授けました。
青年は女神が授けてくれた美しい笛の音に恋をし恋人を忘れてしまいました。
青年の恋人は青年が振り向いてくれないので海に身を投げてしまいました。
青年は、恋人が身投げしたことを聞いて来る日も来る日も恋人が身投げした磯で笛を吹いて立ち尽くしました。ある日この青年は立岩になってしまったそうです。

菅江真澄遊覧記3 内田武編訳「雪の道奥雪の出羽路」「かすむ月星」から引用。
図絵は岩崎美術社発行菅江真澄民族図絵中巻より転載しました。

笛滝は水が枯れているそうですが青年が岩に変わった立岩は小入川の磯辺に立っています。

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